賃金向上を望まない日本人
2018.10.24 Wednesday
「労働力不足」「人手不足」
これらのワードは、少子高齢化と関連させ日本の主要課題として頻繁に語られる。
その解決策の1つとして、
政府は外国人労働者の受け入れを大幅に拡大する政策を進めようとしている。
実は日本は既に移民大国であり、世界4位とも言われているのだが、
これを更に拡大しようとしていることになる。
私は移民政策自体には、それほど強い拒否反応はない。
歴史的に日本は中国人や朝鮮人を中心に、
移民を受け入れ、そこから様々な事を学び、
時に労働力として活用し発展してきた。
「渡来人」という言葉が有名であるが、
これは歴史用語としては4世紀から7世紀頃に、中国大陸及び朝鮮半島から日本に移住してきた人を指す。
飛鳥時代末・奈良時代の日本の人口は、540万人規模だと推定されているが、
この1/5は渡来人だと言う説もある。
現代日本人も、相当な割合で渡来人の血を受け継いでいるだろう。
だから、移民に対してヒステリックになる必要はない。
「日本のルールに従う」この事をしっかりと確認できるなら、
希望する外国人は受け入れれば良いだろう。
但し「労働力不足の解消の為」という目的で受け入れ拡大を図るのは間違いであり、
後の世に大きな課題を残すことになるだろう。
そして、今の時代を生きる日本人をも不幸にする可能性が高い。
何故なら、「労働力不足など存在していない」からだ。
この20年で働く女性は急速に増え、結婚や出産での退職も減っている。
定年を迎え職場を去った後も、様々な形態で仕事を続ける高齢者も多い。
この事から分かることは、「労働力は増大している」と言うことだ。
一方で、需要は殆ど変わっていない。
この事は、過去20年間のGDPや人口増減の推移を見ても明らかであり、
戦後、日本社会で急激な人口減少は起こっていない。
需要量は人口にほぼ比例するから、急激な人口減少がないなら需要も大きな変化はない。
需要に対して労働力が足りない事を、「労働力不足」と言うなら、
全く不足などしていないと言ってよく、
IT技術の進歩を考えるなら、むしろ余っていてもおかしくない。
政府が外国人労働者の受け入れ拡大を目指すのは、
与党自民党の支持母体である経団連の意向が働いているのは間違いないだろう。
経団連は、大企業(主に輸出企業)の経営者の集まりだが、
彼らは基本的に労働者の賃金は上げたくない。
だから、労働力を過剰供給状態にすることで賃金を低く抑えたいのだろう。
労働力の過不足を単純な需要とのバランスで見るなら足りているが、
業種によって足りないのも事実ではある。
土木業や運送業、介護などはその代表例だろう。
要するに「体力的に女性や高齢者が従事することが難しい仕事(=肉体労働)」は、
労働力が不足しがちになる。
ただ、一方で日本には働けるのに、働かない・働く気のない若者が相当数いる事を忘れてはならない。
ある統計では、こういったニート・ひきこもりは300万人規模で存在するとも試算されている。
彼ら彼女らが働かない理由には、賃金の低さが大きく影響しているのは間違いない。
肉体労働は負担が大きい割に、賃金は低く割に合わない場合が多い。
しかし、肉体労働が必要となる仕事とは社会の土台を支えている分野が多く、
この分野の賃上げは、大企業から見ると“コスト増”になる。
運送業の賃金が上がると、それは当然配送料として請求される額に上乗せされる。
トヨタもホンダもSONYも、配送業者を利用した物流は事業上欠かせないものであり、
コストアップは利益を圧迫するのである。
だから、大企業は外国人を入れてでも、コストを低く抑えたいのだ。
安倍政権の経済政策、所謂アベノミクスによりGDPは久しぶりに拡大傾向になり、
失業率はこれ以上ない程に低い。
様々な経済指標を評価すると、今の日本は間違い無く「好景気」だ。
だが、安倍政権は「賃金上昇を抑制する政策」もとっている。
具体的な数値目標を出した賃上げ要請を企業に出しながら、
同時に自らで、賃金が上がらない政策を推進しているのである。
さながら、離陸しようとしながら逆噴射するような滑稽さだ。
「1億総活躍」「女性が輝く社会」「働き方改革」、そして外国人労働者の受け入れ拡大・・・
これらは賃金上昇を抑制するベクトルに作用する政策だ。
最も、このような政策は安倍政権以前もずっと続けられている。
この国が民主主義国家なら、それはつまり国民の意思と言うことなのだろう。
つまり、多くの日本人は実は賃金上昇をそれほど望んでいないのである。